(おおくぼまちこ)
2003年乳がんに罹患、2005年より患者おしゃべりサロン「うらふねマンマの会」を主宰。2008年より福祉施設で音楽活動開始。慶應義塾大学経済学部卒。
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ここに納められた2曲は2年前に肺がんでこの世を去った夫に捧げるものです。夫を失った心が張り裂けそうな悲しみを慰めてくれたのは、きれいなメロディーでした。音楽を聞き、楽譜を読み、自分でも歌うことで、一人残された膨大な時間を楽しく過ごすことができるのではないか?私のこれからの人生に必要なのは「歌」なのだと、いつからか確信していました。
そして天国にいる夫にきれいなメロディーを届けたい。
歌のうまい人はたくさんいますが、私のメッセージを伝える歌は、私が歌いたいです。大切な人を失って喪失感を抱えた人たちと、気持ちが分かち合えれば幸いです。
夫の病気は毎年受けている人間ドッグで、脳転移を伴った状態で発覚しました。私自身、7年前に乳がんに罹患し患者会を主宰していますので、他臓器に転移をしたがんは完治しないと知っていました。
告知を受けて涙が止まらない私に、夫が「ママに泣かれるのが一番つらい。僕は全ての治療を受けるから、一緒に泣かないで頑張ろう。」と言って病院の廊下で「泣かない約束」をさせられました。それから痩せ我慢でも泣かないで日常生活を淡々と過ごしていたら、楽しい日々が過ぎて行ったのです。
泣くだけ泣いて立ち直ることのできる悲しみは、泣くのが正解だと思います。でも末期がんで泣いていたら、涙の理由は枯れることがないので、夫が教えてくれた「痩せ我慢でも泣かないこと」は残された日々を楽しく過ごす秘訣かもしれません。
この曲は横浜の港や運河沿いをいつも二人で散歩していた思い出と、たとえ今は一人で歩いていても、心の中には夫がいつもいるという想いを詩にしました。
当初、夫を亡くした喪失感というのは時間とともに癒えると思っていました。しかし大切な人の居た心の場所はいつまでもスキマのままだし、いつまでもスキマに居てほしいのです。そこにはプラスの気持ち「強いこと・優しいこと・楽しいこと」を詰め込んで残りの人生を豊かにしていきたい。でも頑張るばかりでは息切れしてしまうので、「きれいなメロディー」を一緒に飾っていきたいと思っています。
この歌は夫に捧げるものであると同時に、自分への応援歌です。
2009年12月 大久保真千子